北朝鮮代表の選手たちが、“取材スルー”の後にとある行動を見せた。
3月20日、国立競技場では翌21日の北中米W杯アジア2次予選グループB第3節で対戦する日本代表と北朝鮮代表の前日会見及び練習が行われた。
19日に羽田空港を通じて日本に到着した北朝鮮代表はこの日、18時30分からシン・ヨンナム監督による前日会見を実施。会見は10分程度で終了し、19時からグラウンドで公式練習が行われた。
報道陣に公開された冒頭15分間では、パス回しやストレッチ、サーキットトレーニングなどのメニューをこなしていた。
冒頭15分間の公開が終了後、報道陣は記者控室に戻り待機。数十分後、日本サッカー協会関係者から練習終了の報を伝えられ、今度はミックスゾーンへと向かった。
しばらく待機していると、20時を過ぎた頃に北朝鮮代表の選手がミックスゾーンに姿を現した。ところが、彼らは報道陣の問いかけに応じることなく、そのまま次々にバスへと乗り込んでいった。
一部の選手やスタッフは、2010年南アフリカW杯にも出場した元北朝鮮代表の鄭大世氏と抱擁、記念撮影をするなど、久しぶりの再会を喜んでいた。ただ、基本的に取材対応をしない構図は変わらず。J3リーグのFC岐阜から招集された在日コリアンのMF文仁柱(ムン・インジュ/24)も、報道陣の問いかけには会釈したが対応はしなかった。
筆者も、昨年11月のW杯予選でキャプテンを務めたチーム最年長のDFチャン・グクチョル(30、フェップル体育団)に一言聞こうと名前を呼んで問いかけたが、彼もやはり応じることなく通過した。
結局、北朝鮮代表の選手からコメントを取ることはできなかった。ただ、そのまま控室に戻るのも名残惜しく、せめて会場を出る姿だけ見届けようと、北朝鮮代表のチームバスをミックスゾーン出入口から見つめていた。
バスに乗り込んだ選手たちも、残った報道陣や関係者の姿が座席から正面に見えることもあり、こちらの方を見ていた。なかには、窓を開けてこちらをのぞき込む選手もいた。
そして、ほどなくしてバスが出発。すると、報道陣や関係者の前を通過する際、北朝鮮代表のスタッフや選手たちがとある行動を取った。
というのも、現場に残っていた我々報道陣などに対し、彼らは軽く微笑みながら手を振ったのだ。すぐ翌日にまた会場に集まり、試合後のミックスゾーンで再び顔を合わせるかもしれないのに、まるでしばしの別れを告げるような光景には、こちら側も思わず顔がほころんだ。そして、何人かはバスの方に向かって手を振り返していた。筆者も思わず手を振り返した一人だった。
北朝鮮代表の選手たちがどんな感情でこちらに手を振っていたのかは、バスが通り過ぎる一瞬ではわからなかった。ただ、直前に取材スルーという対応を受けたものの、彼らの何気ない一面を垣間見ることができたような光景だった。
(取材・文=姜亨起/ピッチコミュニケーションズ)
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