ロサンゼルス・エンゼルスを率いるジョー・マドン監督は、去る7月27日(日本時間)のコロラド・ロッキーズ戦後、記者からMVPについて問われると「私にとっては僅差でもない。彼に迫っている選手はいない」とし、大谷翔平(27)の受賞が当然だと明かした。
トロント・ブルージェイズのファンとしては、堪忍袋の緒が切れるような発言だった。というのも、ブルージェイズには打撃3冠王に挑戦しているMVP候補のウラジミール・ゲレーロ・ジュニア(22)がいるからだ。
ただ、現在の雰囲気を見れば、大谷のアメリカン・リーグMVP受賞は最も有力と言って良い。ゲレーロ・ジュニアが3冠王に輝けば話は変わるが、よほどの異変がない限り、2000年のイチロー以来となる日本人選手のMVPが現実となる可能性は高い。
最近のゲレーロ・ジュニアが振るっていないことからも、マドン監督の“予言”は的中していると言って良い。ゲレーロ・ジュニアは打率0.314(4位)、本塁打数35本(2位)、打点数88点(2位)とし、3部門すべてで首位を奪われている状態だ。
現在、3部門それぞれの首位は打率が0.332のマイケル・ブラントリー(34、ヒューストン・アストロズ)、本塁打数が39本の大谷、打点数が89点のラファエル・デバース(24、ボストン・レッドソックス)だ。
本塁打数1位の大谷は打率0.271とし、打点数は86点で3位につけている。投手としては17試合に登板して7勝1敗。92イニングを投げて防御率2.93で、112の四球を許した。
大谷が2021年のMVPを受賞する場合、彼は勝率5割以下の球団から生まれたMVPとなる。
エンゼルスは現在、ア・リーグ西地区で59勝60敗の4位としており、勝率は0.496と5割を切っている。エンゼルスのポストシーズン進出はほぼ不可能に近い。
MVPは「Most Valuable Player」の略だ。記録で優劣をつけることが難しい場合には、自チームをプレーオフに進出させた選手がMVPに認められた。
ライアン・ブラウン(元ミルウォーキー・ブルワーズ)が選ばれた2011年のナショナル・リーグMVPが端的な例だ。当時、記録面だけで見ればマット・ケンプ(元ロサンゼルス・ドジャース)が上回っていた。ケンプはシーズン打率0.324のほか、39本塁打、40盗塁、126打点、115得点を記録した。一方のブラウンは、打率0.332、33本塁打、33盗塁、111打点、109得点を記録した。
OPS(出塁率+長打率)はブラウンが0.994で、0.986のケンプを若干上回っていた。ただ、WAR(代替選手比貢献度)ではケンプが8.0とし、7.7のブラウンより優れていた。
しかし、全米野球記者協会(BBWAA)の投票の結果、ブラウンが338点、ケンプが332点となった。その後、ブラウンに薬物使用疑惑が明らかになったことで、BBWAAの選択が間違っていたことが確認された。
記者がブラウンをMVPに選んだのには、ブルワーズが1982年以来29年ぶりに地区優勝を果たしたことが理由にある。一方のドジャースが82勝79敗でプレーオフ進出に失敗したことも、ケンプに1位票が集まらなかった背景だ。
MLBの歴史上、勝率5割以下の球団からMVPが輩出されたケースは計6回に上る。偶然にも、2016年を74勝88敗(勝率0.457)で終えたエンゼルスからマイク・トラウトが選ばれたのが最後だ。
当時、159試合に出場したトラウトは打率0.315、20本塁打、30盗塁、100打点、123得点を記録。得点数、四球数(116)、出塁率(0.446)の部門で1位となった。
勝率5割以下で最も多くMVPを輩出した球団はシカゴ・カブスだ。
アメリカ野球殿堂入りしているアーニー・バンクスは、1958年と1959年に2年連続でナ・リーグMVPを受賞した。当時、カブスの成績は1958年が72勝82敗の勝率0.468、1959年が74勝80敗の勝率0.481だった。
1987年にアンドレ・ドーソンが選ばれた際は、76勝85敗の勝率0.472で地区最下位だった。当時、ドーソンは49本塁打、137打点と両部門のタイトルを獲得していた。
そのほか、1991年のカル・リプケン・ジュニア(元ボルチモア・オリオールズ)、2003年のアレックス・ロドリゲス(元テキサス・レンジャーズ)も、チームが勝率5割以下に終わったにもかかわらずMVPに選ばれていた。
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