「昭和グルーヴ」をキーワードにジャパニーズ・シティポップを発信し続け、世界で脚光を浴びている韓国人DJ/プロデューサーのNight Tempo。
【関連】Night Tempo、『昭和アイドル・グルーヴ』のトラックリスト解禁!
Winkや斉藤由貴、竹内まりやなど、80年代の日本のポップスを盛り上げた歌手らの楽曲をリエディットした音源は世界的に熱い反響を得ており、昨今の海外におけるシティポップ・ブームの立役者とされている。
その人気ぶりは日本の音楽シーンでもすでに証明済みだ。2019年には“フジロック”の通称で知られる日本最大規模の音楽フェス「FUJI ROCK FESTIVAL」への出演も果たし、日本におけるシティポップ・ブームの“逆輸入現象”にも大きな影響を与えた。
そんなNight Tempoが、5月19日にコンピレーションアルバム『Night Tempo presentsザ・昭和アイドル・グルーヴ』をリリース。コロナ化で日本での活動が制限されるなか、昭和の時代を華やかに彩ったアイドル・ソングをリエディットしたアルバムで日本の音楽シーンに帰還する。
ジャパニーズ・シティポップブームの立役者として変わらぬ存在感を誇る彼が追い求める「昭和グルーヴ」とは……。前回に続き、韓国の自宅からオンラインで話を伺った。
ジャパニーズ・レトロ・カルチャーの熱心な愛好家としても知られるNight Tempoだが、新型コロナウイルスが猛威を振るう昨今、以前のように日本に気軽に足を運ぶことが難しくなった。このような状況は彼にとってもかなり歯がゆいはずだ。
しかし、Night Tempoとしてやることはコロナ以前も以降も変わらないという。
「コロナ時代に入る前と今とで、自分の生活スタイル自体はそんなに変わらないんですよね。イベントができないことが残念だなあってぐらいで、今回のアルバムに関しても前々から準備自体はしていて、このタイミングだからっていうこだわりがあるわけではないですし。しいて言うならコロナが明けてイベントが解禁されて、お披露目のときに“アルバムの曲だー!”って盛り上がってもらえるような“満を持して”感が楽しみですね。
小さい頃から一人で好きなことに没頭するような性格だったので、それが続いているような。自分の“好き”を人に披露するっていうテンションはずっと変わらないと思います」
好きなことにひたむきな姿勢こそが、Night Tempoが世界中のファンから支持されているのかもしれない。しかし、彼が生まれ育った韓国の音楽シーンでは、“好きなことだけ”を追求し続けるスタイルは主流ではないようだ。
「韓国の音楽シーンは流行のサイクルがかなり速いから、短期間でひとつのジャンルを盛り上げられるんですよね。だけど、そのぶん惜しいなって思うところもあって。というのも、海外で流行っているブームに乗っかって韓国でもいろんなアーティストがこぞってそのジャンルを取り入れてある程度話題になるのですが、新しい流行や次のサイクルが来たらみんなこぞってそっちに行っちゃう、みたいな流れがあるんですよね。ちょっとやってみて数字に反映されなかったら次、みたいな…。熱しやすく冷めやすいのが韓国の特徴でもありますが、その風潮はマーケット自体の面白みに欠けるなあと、ちょっぴり残念ですね」
実際に、韓国では2019年ごろから海外のシティポップ・ブームに呼応するかのように“韓国シティポップ”が話題になることもあった。インターネット上ではある程度の反響を得たものの、現地の音楽チャートに食い込むなどといった数字としての手ごたえはなかった。
一方で、日本の音楽シーンはどのジャンルにおいても熱心な愛好家が一定数保たれている印象だ。最近はK-POPブームの影響からNiziUやJO1といったK-POPのエッセンスを強く感じさせるグループの存在が目立つが、既存のアーティストがこぞってK-POP調を取り入れているかというとそうではない。
日韓でギャップを感じる音楽シーンの変遷だが、Night Tempoの音楽に対する考えかたはいたってシンプルだ。
「僕は韓国人っていう感覚以前に自分をネット人間だと思っていて。ネットの人たちって流行とか気にせずに自分の好きなことを追求するじゃないですか。実際に今やっていることって基本自己満足の世界で、それに同調した人がたまたまファンになってくれているってだけのこと。だから、これからもそのスタンスは変わらないんじゃないかな。あまり流行とか評価とかは気にしないです」
ただ、昨今のシティポップ・ブームについては“ちょっとした懸念”もあるという。
「“日本のシティポップがいかに素晴らしいか、今一度わかってほしい”という売り出し方をするのは、僕の中ではちょっと違うかなと。例えば、この時代がいいと思うならこの曲は一度聴かなきゃいけないとか、好きを語るならちゃんと掘り下げるべきとか、そういうのはむしろ言わないほうがいいんじゃないかと最近は思います。実際に僕もこれまで、出すぎたことを言ったかな…専門家みたいに語って健全な流行りかたの邪魔をしているんじゃないかな…と葛藤したことがあります」
こういった視点は、レトロなカルチャーを現代に発信するからこそ見えてきたものなのだろう。彼が語る理想像も、非常に興味深い。
「最近は若者のあいだで“なんかかっこいいから”、“なんかデザインが好きだから”っていう理由でシティポップとか昭和カルチャーに興味を持つ人が増えてきて、そういう流行りかたを単純に嬉しく思っています。僕としては、そんな若者たちから新しい感性のレトロ・カルチャーが生まれるように“きっかけの場”を作り続けるという流れができることが理想ですね」
レトロ・カルチャーを追求し、昭和グルーヴ発信し続けることについては「昭和グルーヴは一般的な流行りになっていく過程をたどっている最中だと思っていて、いうなればブームの土台を作ろうとしているところ。一般的に見るとまだまだニッチな世界なので、昭和グルーヴがもっともっとカジュアルなものになればいいですね」と語るNight Tempo。「最近はコロナが明けたら何をしようかと、そればかり考えています」と今後の活動に対する期待感も高めた。
ジャパニーズ・シティポップ、ひいてはジャパニーズ・レトロ・カルチャーの人気ぶりはどこまで盛り上がるだろうか。ブームの立役者として世界で愛されるNight Tempoの今後に、これからも注目していきたい。
(文=姜 由奈)
『Night Tempo presents ザ・昭和アイドル・グルーヴ』(https://lnk.to/NT_ShowaGroove)
発売日:2021年5月19日(水)
発売元:ポニーキャニオン
CD品番:PCCA-06038
価格:2,200円(税込)
収録曲
1. 新田恵利 – Déjà vu (Night Tempo Showa Groove Mix)
2. 西田ひかる – Nice-catch! (Night Tempo Showa Groove Mix)
3. Wink - 淋しい熱帯魚 (Night Tempo Showa Groove Mix)※
4. 工藤静香 - 嵐の素顔 (Night Tempo Showa Groove Mix)
5. BaBe – Give Me Up (Night Tempo Showa Groove Mix)
6. 斉藤由貴 - ストローハットの夏想い (Night Tempo Showa Groove Mix)
7. 森尾由美 – だからタッチ・ミー (Night Tempo Showa Groove Mix)
8. Wink – Get My Love (Night Tempo Showa Groove Mix)※
9. ゆうゆ - サヨナラ志願 (Night Tempo Showa Groove Mix)
10. 斉藤由貴 – 卒業 (Night Tempo Showa Groove Mix)
11. BaBe – I Don’t Know! (Night Tempo Showa Groove Mix)
12. 工藤静香 - ワインひとくちの嘘 (Night Tempo Showa Groove Mix)
※配信アルバムには未収録、CDのみ収録
前へ
次へ