メジャーリーグ屈指の大物代理人であるスコット・ボラスが、切歯腐心な思いで迫りくるストーブリーグを見つめている。
ボラスのクライアントには、大物選手のゲリット・コールを筆頭にアンソニー・レンドン、スティーブン・ストラスバーグ、J.D.マルティネス、リュ・ヒョンジンと複数の球団が獲得を狙うスペシャルなFA(フリーエージェント)選手が多数そろう。
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過去2年はFA市場で苦汁をなめてきただけに、今冬はどのような戦略を展開するかに関心が集まっている。
過去2年のストーブリーグは、ボラスにとって苦難の時期といえた。各球団が財布のひもを固く締めたことでFAの契約時期がずるずると延びただけでなく、スプリングキャンプ途中の契約が一度や二度にとどまらず、交渉は休む間もなく続いていた。
2017年冬にFAとなったJ.D.マルティネスとエリック・ホズマーは、そろって翌年2月に契約を行った。だが、ボラスの期待した大物狙いの球団による獲得競争は繰り広げられなかった。
逆に、ボラスが提示した巨額の契約金に球団側が渋い顔を見せ、価格を下げようと契約が先延ばしにされる一方であった。
昨シーズンのFA市場も同様だった。
21世紀のFAで最も大物選手と呼ばれたブライス・ハーパーを売り出したものの、ハーパーの契約はオープン戦期間の2月28日に成立した。それでも歴代最高額の3億3000万ドル(約346億円)での契約成立は、目標を達成したといっていいだろう。
だが、もう1人の高額FA選手であるダラス・カイケルは、正規シーズン開幕まで加入チームが決まらなかった。そして、球団の新人指名権に影響を及ぼさない6月に、アトランタ・ブレーブスと1年1300万ドルの短期FA契約を結んだ。
ボラスとカイケル、どちらにとっても完敗といえる契約だった。
カイケルは、前所属のヒューストン・アストロズから受けたクオリファイング・オファー(QO)を拒否してFA市場に参入したが、結果としてQOの1790万ドルより少ない額をブレーブスで手にすることとなった。かつてのサイ・ヤング賞受賞者でさえも無残な結果となったため、FA交渉において1つの失敗事例として挙げられている。
ボラスは過去の失態を繰り返さぬよう、より徹底した戦略を練るだろう。11月初旬のFA市場開幕に備え、保有する選手たちの適正価格を設定し、各球団との交渉の準備を進めている。
各選手の適正価格を、コールは2億ドル以上、レンドンやストラスバーグ、マルティネス、リュ・ヒョンジンなどは1億ドル以上に設定する可能性が高い。特にストラスバーグやマルティネスはオプトアウト(自ら契約を途中で放棄すること)を通じてFAとなるだけに、オプトアウトを決定する前に徹底的な市場調査が必要となる。
カギを握るのは、財布のひもを締めている各球団だ。
契約は双方の合意によって初めて成立する。ボラスが球団を相手に販売戦略を立てる一方、球団側も選手をどう評価するかで、リュ・ヒョンジンをはじめとするボラスの抱える選手たちの契約規模が決まることになる。
菊池雄星や松坂大輔といった選手たちの契約を手掛けてきた大物代理人は、再びFA市場を揺るがすことになるのだろうか。
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